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金持ち大国や多国籍企業の都合で貸し付けられた途上国債務の帳消しを! 債務、世銀・IMF、ODA、南北問題など、翻訳モノを中心にテキトーにupします。

2024-11

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ベルギーを拠点とする第三世界債務帳消委員会(CADTM)代表エリック・トゥーサン氏は、今年10年目を迎えた世界社会フォーラム(WSF)の理論的側面におけるリーダーの一人でもあります。

ブラジルの社会運動が共同所有・出版する週間新聞Brasil de Fato紙に掲載されたインタビューを翻訳してみました。

WSFはメタ運動(運動を代表する運動)になるべきか、みなが平等で、人にメーワクかけない限りなんでも言い合える、なんでもできる場であるべきか、という議論に関して、
”現在の状況はメタ運動を求めているが、永久に議論を続けたり分裂することを避けるために、メタ運動派は、WSFで積極的役割を担いつつも、別の場でメタ運動を作るべきだ”(ざっというと。言葉遣いは違います)
という話から、ラテンアメリカの左翼政権の分析、債務の話へとつないでいます。


スイスのスキーリゾート・ダボスで毎年開かれる世界経済フォーラムに対抗してブラジル、ポルトアレグレで始まった世界社会フォーラム。

私は世界社会フォーラムに2回、アジア社会フォーラムに1回参加しましたが、本当に多様な国からの多様な活動が、同じ場所で、それぞれのやり方でイベントを組織し、学びあう。本当にワクワクするような感動でした。

初参加の人たちに与える感動は今でも変わらないようですが(と、別の論考に書いてあるのを最近見ました)、この社会フォーラムプロセスを引っ張る人たちの間には様々な議論があるようです。

その理解の一助になればと思って、このインタビューを訳してみました。

私は、一参加者として気楽に参加していたからこう思うのかもしれないけど、WSFから、あのみなが平等・なんでもあり、の楽しさ・エネルギーが失われたり、たとえば私がなにか企画しても「その企画の内容はWSF内ではプライオリティが低い」とか言われたら、寂しいだろうなーと思います。

このインタビューの中で言われている、たとえばルラ政権への評価なども、違う意見の方もおられると思います。

ブラジルの社会運動紙への掲載なので、このインタビューへの、ブラジルの運動からのコメントや反論があったら、またおもしろいだろうなーと思っています。

(いつもながら、転載される場合は、必ず原文と照合の上、各自の責任の上でお願いします。
それから、私の正体をご存知の方で私の名前も併記される場合は、一応、ご連絡下さい。)


英語版はこちら
Beyond the World Social Forum... the Fifth International

http://www.cadtm.org/Beyond-the-World-Social-Forum-the

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世界社会フォーラムを超えて
・・・第五インターナショナルへ


エリック・トゥーサン氏へのインタビュー
(インタビュアー、イゴー・オヘダ)

(ブラジルの週刊新聞Brasil de Fato掲載)
2010年2月


インタビュー:政治学博士で今年10年目を迎えた世界社会フォーラム(WSF)の理論的側面におけるリーダーの一人、エリック・トゥーサン氏は、政治的アクションを効果的に行うには政党、社会運動、国際ネットワークを束ねる常設の「フロント(共同戦線)」が必要だと主張する。

政治学者でWSF国際評議会のメンバーでもあるエリック・トゥーサン氏は、WSFは世界の社会的闘争の中でより大きな政治的影響を及ぼすプラットフォームになるべきだという意見だ。

彼はフォーラム内の「WSFはその元々のあり方を変えるべきではない」というグループからの反対を大変な問題だと思っていない。

彼によれば答えは簡単。

「フォーラムがその場になれないならば、私たちは別の仕組みを作るべきだ。これはフォーラムを去るという意味でも、つぶすという意味でもない。」


Brasil de Fato(注1)紙との対話において、ベルギーを拠点とする第三世界債務帳消委員会(CADTM)代表を務めるエリック・トゥーサン氏は、ベネズエラの大統領、ウゴ・チャベスから出された第五インターナショナル創設という提案に基づき運動と政党が対話を行うというアイディアを支持した。

続くインタビューの中で、彼は国際経済危機、ラテンアメリカ統合への取り組み、国際シーンにおけるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の勃興(トゥーサン氏の分析ではこの勢力はこれまでの国際秩序へのオルタナティブになり得るほど進歩的ではない)について語っている。
「これらの国々の関心の中心は、政治力、労働力、世界経済、天然資源へのアクセスにおける国際的な分捕り合戦で自分たちの分け前をいかに増やすかについて旧い帝国主義勢力と交渉することだ。」

・インタビュー

Brasil de Fato-世界社会フォーラム(WSF)のオープニングの討論(注2)で紹介された二種類の意見についてどう思いますか?

ひとつは“WSFはアクションや政治的影響力をもっと拡大するための政治的プラットフォームとして「利用」されるべきだ”という意見、もうひとつは“WSFはアイディアを交換する場という、その元々の目的やあり方を保つべきだ”という意見です。


エリック・トゥーサン-私たちには、主張や目標の優先順位を決定する国際的な仕組みが必要だ。

この仕組みによってアクションの日程が共有され、共同の戦略を立てることができる。もしWSFがこのような仕組みとして機能できないなら、私たちは別の仕組みを作るべきで、これは別にWSFを去る、あるいはWSFをつぶすという意味にはならない。


私はWSFは前述のような機能を持つ場になれると思う。
しかし、WSFがそのような動員のための仕組みになるのを求めないグループがある以上、そのような仕組みの必要性を認める組織や個人によって別の仕組みを作る方がいいだろう。

だからといって、私たちがもはやWSFの中心的役割を担えなくなるわけではない。私の提案は、私たちが分裂してしまったり、延々議論の泥沼にはまり込むのを避けるためだ。

WSFをこのまま主張と討論のための場にしておきたい、活動の主体にはなってほしくないと思うグループがあるのははっきりしている。


・このような意見は根強いですよね?

そうだ。

歴史的にWSFの創設に関わったコアグループがこのように主張していると思うかもしれないが、そういうわけでもない。

たとえばMST(注3)もWSF創設に関わったがWSFが変化していくことに賛成している。CADTMも2001年6月の創設以来WSF国際評議会(IC)のメンバーだ。

しかし、IBASE(注4)のような組織やシコ・ウィトカー、オデッド・グラジューのような人々が、WSFが闘争のための手段となるのに反対するのも理解できる。


付け加えておくと、ポルトアレグレで「10年後」というセミナーに参加したが、出席していたいくつかの国の政府に加えてペトロブラス(注5)、連邦貯蓄金庫、ブラジル銀行、イタイプ・バイナシオナルといった企業がスポンサーになっているのを見て心を痛めた。
私は本当に憂慮している。

私には財政的にはもっとつつましくても、よりラジカルなWSFを見たかった。私たちは自発的に動いてくれる活動家の助けで、共に町に滞在し、スポーツ施設や学校などを会場として使わせてくれるように頼むこともできるのだ。


・どのような新しい仕組みが必要だと思いますか?

実のところ、この提案に対する反響は今まであまりない。
つまり、2009年11月末のウゴ・チャベスからの、社会運動と左派政党からなる第五インターナショナルを作ろうという提案のことだ(注6)。

私はこの提案は原則としては非常に面白いと思っている。

政党と社会運動の間に相互の影響や対話が生まれれば新しい地平が開ける可能性がある。アクションや、考案された代替モデル(注7)を集約する仕組みとしての第五インターナショナルだ。

しかし、私の意見では、この新しい組織は、これまでのインターがかつてそうだったような - あるいは、今でもそうあるような、というのも第四インターナショナルはまだ存在しているから-組織、つまり高度に中央集権が進んだ党組織(party organizations)にはならないだろうという意味でだ。

私の考えでは、第五インターナショナルはあまりに中央集権的であってはならない。

そして第四インターナショナルのように、そこに参加する国際ネットワークや組織の発展的解消も求めない。ネットワークや組織は自分たちのグループの活動を保ちながら第五インターナショナルに参加できる。

しかし、第五インターナショナルのメンバーであるということは、そのネットワーク全体やその主たる運動が、現在の気候正義や社会正義、食料主権や債務など、個々の目的のための当座の協力関係を超えて、その先に進もうと固く決意していることを示すことになる。

多くのネットワークが共通の大義を掲げていて、それはいいことだ。
しかし、私たちが持続的なフロント(共同戦線)をうまく作ることができればもっといいだろう。

「フロント(共同戦線)」は第五インターナショナルの意味を決定付けるキーとなる言葉だ。

私は今の状況からすると、第五インターナショナルは政党、社会運動、国際ネットワークの常設フロント(共同戦線)になるだろうと思う。

「フロント(共同戦線)」という言葉は明らかに、それぞれが個々のアイデンティティを保ちながらも、目標に到達し闘いを進めるために私たちを結集させたものを優先させるということを明確に表している。

ここ数ヶ月の出来事は、私たちの動員能力を増強させる必要性を再度示した。

ホンジュラスのクーデターに対する国際動員は圧倒的に不十分だった。

これは非常に憂慮すべき事態だ。

その後の選挙(注8)を米国が有効と認めクーデターが支持されたため、世界に散らばるクーデター主義者が、今再びクーデターは合理的選択だと考え始めている。

たとえばパラグアイでは、反政府クーデター擁護派の議論はもはや「いつ」「どうやって」になっている。
彼らは国民議会(the National Congress)による反フェルナンド・ルゴ・クーデターが起こるべきだと確信している。

これを見てもホンジュラスに対する動員が十分ではなかったことがわかる。

コペンハーゲンでも十分ではなかったし、今度はハイチだ。米国のハイチ介入への対応はまったく不十分だ。


・第五インターナショナルなら様々な左派の流れをまとめて、政治的アクションを共に担う新しい組織になることができるということですか?

そうだ。
それを可能にするには建設的な対話から始める必要がある、というのが私の意見だ。
急いては事を仕損じる。

真に効果的であるためには、第五インターナショナルは本当にたくさんの数の組織に耳を傾け、纏め上げていかなくてはならない。

ほんの一部の運動だけで第五インターナショナルを作っても意味はない。そんなことをすれば計画がだめになるか、あるいは限られた力しかもたないだろう。

議論の窓口を広く開くことが絶対的に必要だと私は思う。


・別のインタビューで、あなたは昨年1月のベレンのWSFが世界経済危機に対する最初の大動員だったとおっしゃってます(注9)。

しかし今度はホンジュラスやハイチに対して十分な反応がなかったと。何が起こったのでしょう?何が悪かったと思いますか?


そう、ベレンでの大成功とそれ以降に起こっていることとのギャップを追及するあなたの質問は的を得ている。

2009年の状況を見ると深刻にならざる得ない。

危機の震源地だった主要経済大国では大して大きな大衆動員は見られなかった。
フランスとドイツは例外で、かなり大規模なデモがあった。特にフランスでは250万人以上が2009年前半の二回のデモで路上を占拠した(注10)。

米国でも2、3ストライキがあったが限られたものだった。しかし、大衆層-彼らは危機により最も苦しんだ-を動員に参加させることは大変難しかった。まるで人々は呆然と立ち尽くし、意識朦朧となっているかのようだ。

北半球では失業が急増している。スペインでは、経済活動人口の10%から20%に増加した。この30年間なかったことだ。

一方、南の国は、たとえばルラ政権などを見ると、ブラジルやその他のいくつかの国を見ると、危機に耐えうるような金融・経済政策を採ってきたから北ほど危機の被害を蒙ることはないという印象を受けるだろう。

そして南においても、国際危機に対する動員の程度は低い。

しかし、歴史を振り返って比較してみると、1929年のウォール・ストリートの大暴落のあと、大規模でラジカルな社会闘争が形になり出したのはやっと1933年、34年、35年といったところだ。

だから歴史的に言えば、大衆のリアクションはすぐには起こらないとも言える。もし危機が続けば、そしてその深刻な影響が続けば、最後に人々は大挙して動き出すだろう。


・では、この歴史分析からすると、いずれにせよ左派は必要かつ十分な反応を引き出すことはできなかったと思いますか?

これはまた別のポイントだ。

一つ例を挙げると、パラ州のブラジル人の青年たちの間で熱気が高まっていた。2009年1月のベレンの社会フォーラムにも大挙して参加していた。彼らはラジカルな代替案に関する議論に参加していた。
しかし、WSFは大衆動員のツールではないため、その動きはそこで止まった。

さらに、労働組合の上層部は非常に官僚的になっている。

彼らのお気に入りの方針は、政府の決定によって衝突が回避される、というものだ。

彼らは、危機の影響がもっとも悲惨な状況にある人を直撃しないようにクッションを設けるという政府の政策を支持し、また、アドバイスを与えている。労働組合リーダー、左派あるいは「社会民主」政党には断固とした決意が欠けている。

つまり北の国の政府は、社会自由主義的解決策、あるいは新自由主義的解決策を続けるということだ。

彼らは新ケインズ主義的政策を実施してみようとさえしない。

1933年のルーズベルトのニューディール政策は、オバマの、あるいはサパテロやゴードン・ブラウン政権の政策に比べるとはるかに左寄りだ。

これを見ても、伝統的な左派政党や労働組合のリーダーシップに非常に大きな責任があるのは明らかだ。これはWSFが危機に対抗できないことにも深い関係がある。

だからこそ、インタビューの最初の話に戻るが、私たちには新しい仕組みが必要なのだ。


・今回の危機は多極化時代への糸口になっていると思いますか?

米国の経済的独占がもはや20年前と同じではないことは明らかだ。

米国はその経済的卓越性を失ったが、しかし、いまだに産業支配(弱まったとはいえ)、国際通貨(これも弱まってはいるがドルはいまだに主要国際通貨のひとつだ)そして100カ国以上への軍隊の常駐、この三つを併せ持つただひとつの国だ。
米国には侵略する力がある。

5ヶ月前、私はホンジュラスのクーデターとコロンビアの7つの米軍基地は米国がラテンアメリカに野心を抱いている証拠と解釈する記事を発表した。

ジャーナリストたちは、私が誇張しすぎている、米国はラテンアメリカに介入できない、アフガニスタン、パキスタン、イラクに足を取られ、もはやラ米介入に必要な軍事能力を持っていない、と評した。

しかし、米国はハイチに1万5千の兵を送っている。結果からいうと、米国はいまだ世界のあちこちに軍隊や装備や軍事的支援を送る力を持っている。
ハイチのケースは米国が即時に対応できる能力を示したという点で象徴的だ。

地政戦略的面からいって、米国の力はいまだ圧倒的だ。確かに、中国、ロシア、インド、ブラジルといった新勢力が勃興しているが、これらはまだ地域的な勢力だ。EUもそうだ。

私にとってブラジルの国際的状況をもっともよく表す言葉は「周辺帝国主義」だ。

なぜ「帝国主義」か?

なぜならブラジルは近隣諸国を、伝統的帝国主義諸国と同様、投資の対象と見ているからだ。ブラジルはその近隣諸国を自国の多国籍企業が投資できる先とみなし、ブラジル政府の外交政策はこれらの企業の拡大戦略を支援している。

ペトロブラス、ヴァーレ・ド・リオドセ、オデブレヒトなどは現在ボリビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラ、チリ、アルゼンチンで事業展開し、アフリカ諸国にも多額の投資を行っている。

スーパー帝国がないという意味では多極化現象が見られるといえるだろう。

一方で、いわゆるBRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国は、旧い帝国(米国、EU,日本)に対してなんら革新的オルタナティブを提示できていない。
彼らは単に、権力、労働力、世界経済、天然資源へのアクセスの国際間での取り分に関して旧帝国主義勢力と交渉したいだけだ。

現在のパワーゲームに、私たちが支持を表明できるような革新的な部分は見えない。

私たちが現在オルタナティブとみなし得るのはALBA(米州ボリーバル代替構想、ベネズエラ大統領、ウゴ・チャベスの提案による)のような取り組みであり、幸いそこには帝国主義的な国は参加していない。

ALBAのような地域的オルタナティブは大変重要である。

この点で私の懸念は、このプロセスを急いで進める必要があるということだ。
そして、演説に終わるのではなく、様々な国同士のよりよい統合を通してそれ以上のものを獲得するべきだということだ。

しかし、成果も強調しておくべきだろう。
2010年1月25日のALBA会合で、メンバー国はハイチの債務を帳消しを決定した。
同日にモントリオールに集まって、債務救済の条件となる構造調整策に関して議論していた世界の大国たちへのいいお手本になっただろう。


・同じ文脈から、南の銀行のような取り組みの進展をどう評価しますか?満足のいく段階まで到達していると思いますか?

2007年ラファエル・コレアと経済・金融大臣の要請で、南の銀行に対するエクアドルのポジションペーパー策定に参加した。

エクアドルは、南の銀行を公共プロジェクトに投資する、あるいは地元の伝統的コミュニティのプロジェクトに投資する銀行にするという立場だ。
たとえば、食料主権を確保する政策に資金提供し、必要不可欠な土地改革や都市改革を可能にし、道路輸送より鉄道輸送を優先させるような銀行だ。

これは南の銀行がどのような銀行になるかの取りうる選択肢の一つだ。

ブラジルとアルゼンチンは違う目論見を持っている。

彼らは、ブラジル企業やアルゼンチン企業との契約を経由する形で貧しい参加国(ボリビア、パラグアイ、エクアドル)でのプロジェクトに融資したり、IISRA(南米地域インフラ統合イニシアチブ)のインフラ工事に融資したりする銀行を考えている。

つまり、ここでも公共の資金を民間業者のために使って、環境や労働者の状況への配慮がなにもない大規模プロジェクトを立ち上げようというものだ。

これがブラジルとアルゼンチンの選択だが、こちらの方が現在南の銀行内の議論で力を持っている。

左派政権はこれに対抗し、北のものであろうが南のものであろうが多国籍企業を利するような統合ではなく、真の民衆のための統合を選択すべきだ。

この統合はEUをモデルとするものではない。

欧州の統合は民間資本の蓄積の理論-自由主義、新自由主義的理論に支配されている。いくつかの国の政権の性質、社会運動の強さ、ラジカルな闘争の伝統から考えると、ラテンアメリカは世界でもっとも容易にオルタナティブモデルを実践できる場所だろう。


・あなたはよく二つの左派があると言われます。
エコ社会主義的左派と社会自由主義的左派と。

危機によって新自由主義は失敗であることが明らかに示されたのに、ルラ大統領-あなたの呼ぶところの社会自由主義者-は以前より力を増した国のリーダーの一人と目されています。これをどのように説明されますか?


一国の運命を決めるのは社会運動、動員を通して蓄積された大衆の経験だ。
政治的にもっとも進んだ政府を持つ国は、社会運動がもっともラディカルな国だということは見ればわかる。
この社会的大衆動員のレベルが高ければ、政府に左派の方向性と合致する政治的・社会的政策を採らせるプレッシャーとなる。

ブラジルは残念なことに、この手の動員がこの5、6年あまりなかった。

そしてルラ政権は好ましい国際経済背景の下にスタートした。

2004年から08年まで、国の経済は一次産品の国際価格上昇や北の投機バブルという追い風を受け、これらが輸出をより伸張させた。そして今に至るまで、先に示したように、ブラジルは国際危機からひどい影響を受けていない。

だから政府は、現在の好調な経済はその政策のおかげだと主張できているが、厳密に言えばそうではない。


・ではブラジルはどうやって危機を免れたのでしょう?

2008年後半の一次産品価格下落の後、2009年には再度価格が上昇したからだ。

また、「Bolsa Familia(貧困世帯への直接補助金制度)」プログラムが貧困層に一定程度の消費を提供し、これが国内マーケット維持に貢献した(注12)。

問題は、今後数年の間に何がおこるのか、ということだ。

中国の成長はどうなるだろうか?

これが続かないのは目に見えている。

いくつかの投機バブルが中国で膨らんでいる。
不動産バブル、株式市場バブル、そして債務の幾何学級数的増大。

中国の成長は、米国、欧州、日本の危機で失われた海外市場を補うために、公的支出をかなりの額増やしたおかげで維持されている。
成長率はこれらのバブルのおかげで人為的に維持されている。

現在の世界状況の中で、中国は経済成長の残滓の中で運転し続けている。
中国がなければわれわれは完全な世界不況を生きていたことだろう。

ブラジルの状況は鉱物輸出などを通して中国の状況と繋がっている。
しかし、それでもやはり、中国国内の状況のおかげで、ある程度の成長レベルのもと、世界経済が保たれている。

もしこの状況が崩れれば-私はこれが絶対に起こるかどうかわからないが、起こる可能性はあると思っている-ブラジル経済にも影響するだろう。

ここ数年のうちに他にも国際金融崩壊が起こる可能性があるが、ブラジルはその影響も蒙るだろう。

一次産品価格は地球経済の実勢より高めに推移している。
これは大豆などの輸出食料への投機があるからだ。

この投機バブルがいったんはじけたら、一次産品価格は暴落し、ブラジルにも影響を及ぼすだろう。
だからブラジルがいわば単独で鉄壁の経済を誇っているという思うのは間違いだ。

ブラジルは国際的な変化に依存しており、これを制御することはできない。

ブラジルが取れる対処法は、国内マーケットを拡大し、保護主義的政策を導入し、資本移動への規制を強め、配分的経済モデルを実施し、独占と企業ロビーを廃し、根本的な土地改革・都市改革を行うことだ。

これができれば、真に左派路線に沿った地域統合におけるひとつのモデルになるだろう。しかし、そのためには政府が変わる必要があるかもしれない。


・より左翼的な政権、たとえばベネズエラ、ボリビア、エクアドルの危機への対応をどのように見ていますか?

この三つの政府だけではなく、ルラ、クリスチーナ・フェルナンデス(アルゼンチン大統領)、ミシェル・バチェレ(前チリ大統領)の政策にも評価すべき点があった。

IMFの公的支出削減の提言にも関わらず、ペルーの右翼的なアラン・ガルシア政権でさえそれに反する政策を実行した。

このおかげでこれらの政府はある程度の経済成長を維持できている。
この点ではボリビア、エクアドル、ベネズエラの対応もそれほど違わなかった。

これらの政府は消費と経済活動を維持するためにかなりの額の公的支出を維持した。この三カ国の中で、国有化を推し進めることでその経済政策をわずかではあるが急進的に改革したのはウゴ・チャベスだ。

しかし率直に言って、コレア、チャベス、エボ・モラレスの危機への対処方法はこの地域の他の政権とそれほど違ったわけではない。
経済的な側面ではそれほど根本的な違いはない。

私に言わせれば、違いがあるとすれば反帝国主義的態度、憲法改正、天然資源へのコントロールの回復の点でだろう。

しかし、この地域の経済発展の面で大きな違いがあると主張するのは状況を単純化しすぎることになるだろう。

個人的にはエクアドル、ベネズエラ、ボリビアこそ真にラジカルなオルタナティブモデルを実践しているといいたいが、いまだそこまでいかない。

これらの国には非常に興味深い兆しや展望があるが、私たちは彼らの主張や理想と、実際に起こっていることを混同してはならない。


・公的債務に関する議論はどうなっていますか?

債務問題にはアップダウンがある。

1980年には熱い議論があった。

2001年末にアルゼンチンの債務不履行でまたこの問題が再燃した(注13)。

今再び、この問題で緊張が戻っているが、この状況は始まったばかりだ。

2007年、エクアドル政府が監査委員会を設立し、私も参加した。
そしてこの結論に基づき、コレア政府はウォール街で売られ、2012年と2030年に満期を迎える商業債券32億ドルの償還停止を決定した。

コレアは2008年11月からの償還を停止し、債権者・債券保持者に強固な姿勢をとり続けている。

2009年6月10日、彼はこれらの債券の91%を、65%の割引率で買い戻すことに成功した。

つまりエクアドルは10億ドルで32億ドル分の債券を取り戻すことになる。
エクアドルは22億ドルを節約し、利子も払わずにすんだ。

これは小さな国でも債券保持者に対して立ち上がり、彼らに我慢を強いることができることを示している。
通常ならいつも勝つ側が、もはやこの債券から大きな利益を上げることができないという事実を受け入れざるを得なかった。

学ぶべきは、エクアドルにできることならブラジルやアルゼンチン、他の国でもできるだろうということだ。

アルゼンチンは2001年に支払いを停止していたが、2005年に別の債券と交換するというミスを犯した。

債券を買い戻すか、全面的に支払い拒否すればよかったのだ。

もちろん割り引いた上での交換だが、アルゼンチンは高利を支払わなくてはならなかった。

アルゼンチンの債務残高は今日、2001年と同じである。

Judith Harris, Christine Pagnoulleによるフランス語から英語への翻訳(の和訳)

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1)週刊全国紙Brasil de Fatoはビア・カンペシーナ、コンスルタ・ポプラール、数多くの左派キリスト教組織、フェミニストグループ、学生運動など様々な社会運動により所有・発行されている。
http://www.brasildefato.com.br/v01/agencia/entrevistas/para-alem-do-forum-social-mundial-a-quinta-internacional

2)イゴー・オヘダが言及しているのは「10年後:もうひとつの可能な世界のための課題と提案」と題する国際セミナーの開会演説。

このセミナーはIBASE、Ethos、the Instituto Paulo Freireを含むいくつかのブラジルの組織からなる「WSFプロセスを振り返り支援するグループ」主催で2010年1月25日から29日までポルトアレグレで開催された。

3)Movimento dos Trabalhadores Rurais Sem Terra (土地なし労働者運動)
http://www.mst.org.br/

4)Instituto Brasileiro de Análises Sócias e Econômicas (Brazilian Institute of Social and Economic Analyses).
http://www.ibase.org.br/

5)Petrobras, ブラジルの半官半民の石油会社 (政府が資本の39%を保有)。海外投資ではブラジル第二の多国籍企業。特にアマゾン地域で深刻な環境破壊を引き起こしている。

6)「社会主義的方向性を持つ政党、運動、思想が、帝国主義との戦い、資本主義から社会主義への転換、連帯の枠組みに基づく経済統合に向けて共通戦略を提案するために集える場としての第五社会主義インターナショナルを召集する、ウゴ・チャベス・フリアス将軍のという提案の元に、2009年11月19、20、21日、左派政党の国際集会がカラカスで開催された。」(“COMMITMENT OF CARACAS” p.12)
http://www.psuv.org.ve/files/tcdocumentos/commitment.caracas.pdf

7)この件に関する国際的な呼びかけが行われている
「参加型社会主義インターナショナルの提案」
ZNET http://www.zcommunications.org/newinternational.htm

8)Eric Toussaint “The U.S. and its unruly Latin American ‘backyard’”参照 www.cadtm.org/The-U-S-and-its-unruly-Latin


9)“An interview with Eric Toussaint, by Pauline Imbach: A New Start for the World Social Forum?” 参照
http://www.counterpunch.org/imbach03032009.html
http://www.cadtm.org/A-New-Start-with-the-2009-WSF

10)2009年第一四半期にグアドループとマルティニ-クで起こった大規模デモにも留意するべきだろう。

11)Eric Toussaint, 'Du coup d’Etat au Honduras aux sept bases US en Colombie : la montée de l’agressivité de Washington', 2009年12月7日参照,
www.cadtm.org/Du-coup-d-Etat-au-Honduras-aux

12)ブラジルでは貧困ライン以下の1100万の家庭が月7ユーロから45ユーロを受け取っている。
この政策により、自分たちの収入だけでは生きるか死ぬかだった約24%の人々の生存を日々保障する程度の実質的向上がもたらされた。

2003年以降彼の第一就任期間中に実施されたこの政策のおかげで、2006年の選挙でルラの得票率が国内で最も高かったのは最貧困層だった。

V.M. Castro and M. Bursztyn, “Social inclusion or poverty alleviation? Lessons from recent Brazilian experiences”, Center for International Development, Harvard University,参照
www.politiquessociales.net/IMG/pdf/027.pdf

世銀もこの政策を支持している: http://go.worldbank.org/PE5Z73M330
ルラ政権は2009年11月、貧困家庭に携帯電話1100万台を無料配布する計画を発表した。毎月の使用料は約3ユーロである。

13)2001年末から2005年3月の間、大衆の蜂起に加えて流動資本の不足により、アルゼンチン政府は1000億ドルの債券償還を停止した。
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